【薬師霊場巡りのすゝめ】

 薬師如来。詳しくは薬師瑠璃光如来といいます。また、医王如来とも呼ばれ、我々の病気を治すことを本願としておられます。

 わが国では最も古くから信仰され、仏教の伝来とともに、一番最初に入ってこられたのが、この仏さまともいわれております。人間の苦しみのなかで病気が一番つらいことであり、とくに昔は医学も進んではおらず、良い薬もなかったので、どうしても薬師如来におすがりするようになったのではないでしょうか。

 薬師如来さまが、私たちをお救いくださるのは、心の病と身体の病の両面があり、昔の人たちは、肉体の方の救いから信仰に入ったのでした。

 それは現代でも、一般の間に根強く残っています。それゆえ、古いお寺には、必ずといっていいほど、薬師如来をまつってあります。それもみな、昔の人たちが病気平癒を祈願するためであり、古書にも多くの薬師霊験譚をみることができます。

 この仏さまのことを説いたのが、「薬師本願功徳経」であります。このお経によれば、お薬師さまがあるとき、広厳域の楽音樹のもとにおいでになって、文殊菩薩の質問にお答えになったのが、薬師如来の十二大願であります。

 「これより東の方にある、あまたの国をすぎて、この仏の浄土がある。これより浄瑠璃世界と名付けてある。この浄土の功徳荘厳は、西方の極楽世界と同じであって、もし悪道に落ちようとする者が、この如来のおん名を聞いたならば、良い境遇が得られ、また、西方極楽へ往生したいと願いながら、その心が、決定していない者がこの如来のおん名を聞いたなら、命が終わる瞬間に八大菩薩が空中をとんできて、極楽の道を教えてくださるのだ」とも説かれます。

 次に、阿難の質問にお答えになって、「もし国に七難が迫ったとき、この如来に供養をすれば、世の中が安穏になり、九種の横死から免れることができ。眷属の十二夜叉神将は薬師信仰者を護るであろう」と説かれていますように、薬師如来は現世の利益である長寿や財宝などを与えてくださり、身にふりかかる災難から守り、病からも守ってくださり、心身を安楽に導いてくださる仏さまです。

 これほど現実的な利益を与えてくださる仏さまに、人気が集まるのは当然であり、お薬師さまは盛大な信仰を得るようになったのです。

  このたび、平成の霊場として、中国地区五県に「中国四十九薬師霊場」を開創することとなりました。昨今は巡礼ブームということもあり、各地に大なり小なりの霊場が新たに生まれています。日常生活の中で、不安や迷いを抱き、何を目標に生きていけばよいのかわからないなど、いろいろと満たされぬものがあり、その心の渇きを癒してくれるものとして、多くの人が巡礼に惹かれていくのでしょう。

 とくに今日は、車社会ですから道路も整備され、車での巡礼もふえました。行楽を兼ねて気軽に巡ることもできます。巡礼の間に名所旧跡を訪ね、自然景観を楽しむこともできます。心身の健康のため、心の旅として、これほどすばらしいことはありません。

 しかし本来、霊場巡礼は、幸せを願いながら歩く修行であります。寺々をめぐる中で、本当の自分を見つめ、日常の諸々に感謝し、反省し、懺悔し、そうするうちに次第次第に自分が浄化され、自分自身を高めていく修行であると思います。

 昨今は、とかく自己中心的な考えの横行する世の中です。巡礼をすることによって、他を慈しみ、命の尊さを知り、自己中心ではなく互いの幸せを願いながら生きることを思い起こすことが大事だと思います。

 中国史十九薬師霊場は、大寺もあれば小寺もあります。各札所が一丸となって、真心で皆さまをお迎えいたします。何卒、一人でも多くの方々にお薬師さまとご縁を結んでいただき、一人でも多くの方々に幸せになっていただき、楽しい人間関係ができ、楽しい家庭、楽しい社会を築く機縁となれば、望外の喜びであります。

 

 

初代会長 第19番札所 薬師寺住職

故 後藤 公己 師 

『中国四十九薬師巡礼』 より

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